数理情報学専攻 鳥井健成
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博士課程でのご自身の研究テーマ
私は量子基礎論や量子情報理論と呼ばれる、ミクロな世界の物理現象を記述する量子論の性質を数理的に調べる研究をしています。ミクロな世界では古典論とは相容れない不思議な現象が起こります。例えば、ある系について、古典論では全ての物理量を(原理的には)同時に測定することができます。しかし、量子系においては、「ZスピンとXスピン」や「位置と運動量」など同時に測定できない物理量の組が存在します。この不可能性は、測定技術の未発達などといった技術的要因によるものではなく、量子論の理論自体によって課される制約です。量子論には他にも、未知の量子系を複製できない、量子系を乱さずにその系の情報を取り出せない、などの不可能性が存在します。これらはincompatibility(両立不可能性)と呼ばれる枠組みで統一的に扱うことができ、私はその性質を操作的・定量的に調べています。「不可能性」と聞くと、量子論は不便で扱いにくいものと感じがちですが、実際にはこの性質が量子暗号の安全性などに寄与することが示されており、基礎論的な面白さだけでなく量子情報技術の発展にも繋がる研究テーマになっています。
博士課程に進学しようと決めた時期および動機等
学部生の頃から博士課程への進学は意識していました。私は元々勉強が好きでしたが、卒業研究を通して勉強だけでなく研究も好きだということを自分の中で確かめられたので、修士課程へ進学する時点で博士課程まで進むと決めていました。最終的に進学を決心したのは、研究者として生きていくことが自分にとって一番幸せだと判断したからです。学部卒や修士卒で就職した方が経済的には豊かな暮らしを送れたかもしれませんが、自分にとってはそれよりも、好きな勉強・研究をして暮らしていける環境の方が幸せだと考えています。また、私の興味が基礎研究に向いており、企業の研究職では追及しにくい分野だったことも理由の一つです。
博士課程において、楽しいところ・大変なところ
楽しいところは、やはり毎日研究に没頭できる点です。なかでも、解くべき問題が定まってから、頭が回らなくなるまで考え続け、疲れたら寝てまた次の日考える……という日々を送っているときは、代えがたい充実感を覚えます。一方で、大変な点としては、孤独感などの精神的な負担が挙げられます。博士課程では授業がほぼなく、研究室外での交流の場が限られます。また、既に就職した知り合いの様子をSNSなどで見ることで孤独感を感じることもあります。そのような状態に陥らないよう、研究室外にもコミュニティを持つことや、心の拠り所となる存在を見つけておくことが大切だと感じています。
これからのキャリアや夢
前述の通り、研究者として生きていくことが私の夢です。専門分野の特性上、アカデミアでのキャリアを目指すのが現実的だと考えています。アカデミアに残る場合、博士号取得後はポスドク(博士研究員)になるのが一般的ですが、待遇面や研究者としての人脈形成のため海外でのポスドクも選択肢として考えています。少し話は逸れますが、私は幼い頃に「虫はかせ」になりたいと言っていました(当時カブトムシやクワガタが好きでした)。分野こそ変わったものの、20代半ばになってなお、幼い頃の「はかせ」という夢を追い続けられているのはとても有り難いことだと感じています。その感謝を忘れず、まずは博士号を取得できるよう研究に励みたいです。
後輩たちに対するメッセージ
正直に言うと、博士課程への進学は、ただ研究が好きというだけで手放しに勧められるものではないと感じています。博士課程に進めば、世の中の多くの人とは異なる道を選ぶことになりますし、多くの場合で経済的な厳しさやライフプランの立てにくさがあるのも残念ながら事実です。それらを加味した上で、どう生きることが自分にとって幸せなのかを考えることが大切だと思います。そして、考慮の末に進学を選んだのであれば、その選択に自信を持って存分に研究に打ち込みましょう。ネガティブなこともいくつか伝えましたが、研究に没頭できる毎日が楽しく充実していることは間違いありません。博士課程も選択肢の一つとして、この記事が皆さんにとって幸せな進路選択の一助となれば幸いです。


