教員紹介:安田孝美(やすだ たかみ)

生活者視点に立った電子社会の設計

電子社会の設計を通して、情報社会のプロデューサを目指せ

インターネットという世界規模の通信インフラは普及を続け、大容量化などの進化を続けているとはいえ、通信と放送の融合など新たな変化はようやく始まったばかりである。インターネット放送など通信の放送化や地上波デジタルテレビ/ラジオ放送など放送の通信化によって、新しいサービスが社会を大きく変えることが予想される。
電子社会設計論講座では、このような情報通信技術(ICT:Information Communication Technology)を利活用した社会システムを、生活者視点に立って具体的に設計していくことを大目標に掲げて研究を推進している。ICTを使って人々がどう幸せになれるのかということが重要であり、研究のアプローチは「技術の開発」と「社会での利用」という2方向から行っている。これら文理の境界領域での研究を通して、修了生には情報社会のプロデューサとなって巣立っていってもらいたい。

安心・安全なユビキタス社会実現を目指して

インターネット上でWebGISなどを利用したコミュニティ・マップ作成の試みがさまざまな地域で行われている。ご近所マップあるいはご近所かわら版として、コミュニティの安全と活性化に貢献することが期待されている。具体的には交通事故やひったくりなどの犯罪多発地帯の明確化と情報共有や、災害時の避難場所の提示など、安心で安全な実社会を実現するために重要な役割を担うことが可能である。また地域に長く居住している高齢者の方の生活の知恵を若い世代が共有する(ご近所知恵袋)ことにより、水害などの災害から身を守ることも可能である。世代間ギャップを少なくし、高齢者にとっては地域に貢献する生き甲斐を与えることにもなり得る。このような取り組みを通して住民がコミュニティへの参加意識を醸成することが、インターネットという仮想空間での結びつきを実社会への連帯に誘導するきっかけとなる。インターネット上の電子掲示板、blog、SNS(Social Networking Service/System)などといった仕組みは、情報社会におけるコミュニティの安全化、活性化のための有効な手段となり得る。

生活者視点に立った電子政府/電子自治体サービスを考える

行政サービスを実施するにあたっては、すべての人々がその恩恵を受ける環境が整わなければならない。その意味でインフラ整備は言うまでもない。しかしインフラが整備されたからと言って、使えない人々が存在する以上ひたすら電子行政サービスを推進することは問題である。このデジタル・デバイドの解消は電子社会を設計する上で非常に大きなテーマとなる。高齢者や障害者、病気の方や子供たちでも一般のパーソナル・コンピュータや情報家電を利用して、より簡単な操作によってインターネット・ブラウジングやメールの送受信ができるソフトウェアの開発は社会的ニーズが極めて大きい。さらに、真のデジタル・デバイドの解消にはハードウェアやソフトウェアの開発・整備のみでは不十分で、社会システムの中でそれを稼働させるために人のコミュニティの関わりが不可欠である。その意味において産官学共同で取り組むべき格好のテーマである。また、ケータイや地上波デジタルテレビ/ラジオ、カーナビ、無線LANなどの新しいメディアを利用した行政サービスも重要な研究分野である。各メディアの特性を活かした日常時と非常時における行政サービスとは何か。災害時における広報システムを構築する上で重要なポイントである。

ICTを活用した新しい教育を考える

義務教育課程での情報教育や高等学校における教科情報の導入などによって、学校教育では情報に関する教育が充実してきている。これに伴い、インターネット上では多くの教材や実践的教育報告が提示されている。また、各種ミュージアムなどでもインターネットを通した所蔵品や展示物の紹介や関連する教材の提供が行われている。今後は生涯学習施設、各種ミュージアム(図書館を含む)と学校教育、家庭学習、生涯学習とのICTによる連携システムの提案と実証が重要なテーマとなることが予想される。さらに、ブレンデッド・ラーニングやVR(Virtual Reality)などを取り入れた新しい生涯学習情報システムの検討や、ICT時代の「知のアグリゲータ」としての図書館像の構築も興味深い分野である。モーション・キャプチャ装置による人体動作データを利用した太極拳やヨガなどの健康維持運動を、自宅にいながらIPカメラ/マイクを通して遠く離れた友達と楽しく話をしながら、等ということも健康で生き甲斐のある社会の設計には大切な切り口である。

経歴

  • 1987年、名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程(情報工学)修了。同年、同大学助手。
  • 1993年、同大学情報文化学部助教授
  • 2003年、同大学大学院情報科学研究科教授、2015~2017年同研究科研究科長、2017年同大学情報学研究科・情報学部教授となり、現在に至る。市村学術貢献賞、科学技術庁長官賞、情報処理学会学会活動貢献賞、同学会坂井記念特別賞 等

所属学会

  • 電子情報通信学会
  • 情報処理学会
  • 日本社会情報学会
  • 芸術科学会
  • 情報文化学会
  • 情報通信学会
  • 日本デジタルゲーム学会

主要論文・著書

  1. 近藤真由, 後藤昌人, 安田孝美, 横井茂樹,(2010年1月),“地域サイトの継続促進のための情報管理・運営方法に関する研究”,社会情報学研究,Vol. 14, No. 1, pp. 17-31.
  2. 入部百合絵,安田孝美,横井茂樹,(2004年3月),“デジタルサイエンスミュージアムにおける分散型ビデオクリップオンデマンドシステムの基礎手法”,情報処理学会論文誌,Vol. 45, No. 3, pp. 1041-1052.
  3. 安田孝美,(2002年1月),“専門家のコラボレーションと学際的見地の醸造から生まれる新たな情報技術を活用した教育”,教育システム情報学会誌,Vol. 19, No. 1, pp. 64-66.