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特集「新型コロナと情報」:新型コロナの偽情報はなぜ拡散するのか

 新型コロナの感染拡大が問題となっている中、SNSなどのソーシャルメディアでは、有害なデマや陰謀論の拡散が問題になっています。新型コロナの偽情報は、なぜこれほどまでにネット上を拡散するのでしょうか。その理由を計算社会科学[1]で読み解きます。

パンデミックで拡散する偽情報

「新型コロナは中国の研究所で人工的に作られた」というデマは、繰り返しネット上を拡散しています。世界保健機関(WHO)はそのような証拠はないと発表していますが、米国の成人の約3割(特に若者)がこのデマを信じているとの調査報告があります[2]。「マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが、新型コロナのワクチンを人々に接種させて監視用のマイクロチップを埋め込もうとしている」というトンデモな陰謀論は、米国の共和党支持者の約4割が信じていると報告されています(民主党支持者の場合は約2割)[3]。
 また、間違った予防法の氾濫も深刻な問題を引き起こしています。「お湯で新型コロナが死滅する」という偽の予防法は日本でも注目されました。「抗マラリア薬が新型コロナに効果がある」という科学的に十分検証されていない情報を信じて、この薬を服用して体調を崩す事例も生じています。
 真偽不明の情報がネット上に氾濫して、間違った行動が誘発されかねないこのような状況は「インフォデミック」と呼ばれています。新型コロナのインフォデミックを克服することは、このパンデミックを乗り切ることと同様に重要です。

“ビル・ゲイツ陰謀論”の拡散パターン

 偽情報がどのようにSNS上を拡散するのかの手がかりを得るために、前述の「ビル・ゲイツ陰謀論」に関連するキーワード(陰謀、ワクチン、マイクロチップ等)を含むツイッターへの投稿(ツイート)の拡散を分析しました。また、比較のために、「ワクチン有害説」(「ワクチン接種で自閉症になる」という古くからある陰謀論)も同様に分析しました。
 図のAとBの丸はツイッターのユーザー、線はツイートの拡散(リツイート)を表し、リツイートされた回数に比例して丸が大きく描かれています。丸の色はネットワークの構造から推定したコミュニティーを表しています。多くの場合、陰謀論はそれを信じる特定のコミュニティーの中でもっぱら流通します(図A)。しかし、ビル・ゲイツ陰謀論の場合、複数のコミュニティーに偽情報が拡散している様子がわかります。これは、普段であれば、陰謀論を信じないようなコミュニティーにまで情報が到達し、影響を与えている可能性を示唆しています。
 さらに、「ビル・ゲイツ陰謀論」のリツイート・ネットワークにおいて、「何人のユーザーにリツイートされたのか」(入次数)に関する分布も調べました(図C)。ほとんどのユーザーは数名からリツイートされるに留まったのに対して、極端にたくさんのユーザーからリツイートされたユーザーが複数いたことがわかります。つまり、陰謀論の拡散において、拡散の起点となる社会的影響力の大きいユーザーが複数存在している可能性があります(詳細は分析中)。こうした「インフルエンサー」の影響をいかにシステムレベルで制御するのかが、陰謀論の拡散を緩和する鍵を握っています。

A: ワクチン有害説のリツイート・ネットワーク(最大連結成分)B: ビル・ゲイツ陰謀論のリツイート・ネットワーク(最大連結成分)C: Bの入り次数分布

インフォデミックの”ワクチン”を打つ

 新型コロナは私たちの命や生活に直結する問題なので、真偽とは関係なく、時には善意で、思い込みに合致するデマや感情を刺激する陰謀論はSNSで容易に拡散されてしまいます。さらに、SNSでは他者の反応(「いいね!」の数やリツイート数)が可視化されてしまうことや、前述のようなインフルエンサーがいることも、偽情報が増幅される要因になります。そして、拡散された偽情報は、同質性の高いコミュニティーの中で繰り返し流通することになります。このような偏った情報のみが流通する情報環境は「エコーチェンバー」と呼ばれています[4]。
 偽情報の拡散を抑止し、インフォデミックを改善するためにはどのような対策が必要でしょうか。そのためには計算社会科学のアプローチで、偽情報の拡散現象の仕組みを理解することが重要になります。その知見を踏まえた上で、人が生まれつきもつ「見たいものだけを見て,つながりたい人とだけつながる傾向」が過度に助長されないような、エコーチェンバー化を抑制するソーシャルメディアの設計論が必要です。
 そして、最終的に重要になるのは、私たち一人一人の情報リテラシーを高めることです。SNSで怪しい情報を見かけたならば、オリジナルの情報源を確認したり、あえて反対意見に触れてみるのがよいでしょう。多様な情報に触れることが大事です。デマや陰謀論が拡散する仕組みを正しく理解し、そうした偽情報を安易に共有しないための情報リテラシーを身につけることは、インフォデミックに対する有効な”ワクチン”となります。

  1. 計算社会科学 (Computational Social Science) とは、ビッグデータやコンピュータの活用が可能にするデジタル時代の社会科学。人間が生み出す膨大な行動データの分析、デジタルツールを活用した実験や調査、社会現象の大規模なコンピュータ・シミュレーションなど、新たに利用できるようになったデータや数理・情報技術を駆使し、個人や集団、そして社会をこれまでにない解像度とスケールで定量的に研究する学際領域。
  2. Nearly three-in-ten Americans believe COVID-19 was made in a lab, https://www.pewresearch.org/fact-tank/2020/04/08/nearly-three-in-ten-americans-believe-covid-19-was-made-in-a-lab/ (参照 2020年5月30日)
  3. New Yahoo News/YouGov poll shows coronavirus conspiracy theories spreading on the right may hamper vaccine efforts, https://news.yahoo.com/new-yahoo-news-you-gov-poll-shows-coronavirus-conspiracy-theories-spreading-on-the-right-may-hamper-vaccine-efforts-152843610.html (参照 2020年5月30日)
  4. 笹原和俊『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ,陰謀論,プロパガンダのしくみ』化学同人 (2018)

笹原 和俊
名古屋大学 大学院情報学研究科 複雑系科学専攻 講師
専門は計算社会科学

2020年6月2日複雑系科学専攻創発システム論講座, コロナ特集, 複雑系科学専攻, 自然情報学科, 複雑システム系

Posted by sasahara@i.nagoya-u.ac.jp

特集「新型コロナと情報」:数理生物学・複雑系科学の視点から
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