教員紹介:川合伸幸

研究内容

ヒトの心の輪郭

「ヒトはどうしてこんなに賢いのか」ということに関心がある。別の言い方をすれば、ヒトはどのような進化を遂げて今の私たちになったのか、ということや、ヒトの知性はどこまで他の動物と共通しており、またヒトに特有な高次機能とはどのようなものか、ということに関心がある。
しかし、そのようなことを直接調べるわけにいかないので、ヒトは(ヒト以外の動物も)、どのように環境の情報を取り込み、知識を獲得し、適切な行動を遂行するのか、ということを調べている。認知心理学、行動科学、生理心理学などの実験手法を用いて、ヒトの認知(cognition)、学習(learning)、記憶(memory)、注意(attention)、進化(evolution)に関わる問題を中心に、広くヒトの認知に関わる精神活動の解明を目指している。
成人のみならず、子どもや自閉症児・者、チンパンジーやサルなども研究の対象とし、個体発生的・系統発生的な側面から、「ヒトの心の成り立ちや輪郭」を捉えようとしている。研究領域としては、「比較認知科学」がもっとも近いが、もう少し範囲が広いかもしれない。
研究テーマとしては、
・学習(成人のほか、胎児・新生児・高齢者や動物を含む)、
・他者の身体部位や動作への注意(視線の測定や行動実験による)、
・他者の身体や行為を、みずからのもののように感じること、
・タイプを打つことに代表される系列的な運動の計画と遂行、
・短期(作業)記憶、
・情報の階層的な処理(統合と理解)
・自閉症児・者の注意
・ヒトとロボットのインタラクション
・サルやヒト以外の霊長類の推論や高次思考過程
などが含まれる。
テーマにまとまりがないように思うかもしれないが、それは、系統発生(進化)的な観点から、ヒトの高次認知機能の成り立ちを探りたいと考え、さまざまな動物を対象としてきたからである。
これまでに単純な因果関係なら、無脊椎動物や霊長類の胎児でも学習することを実験的に示してきた。脊椎動物のなかでもほ乳類は、そのような関係がさらに高次な関係を構成するとき、それらを繋げて推論をおこなう。
部分的な関係が並列的に存在し、それらに順次系列的な反応をしていく場合に、霊長類のなかでもサルは部分的な関係に注目して逐次的に反応するが、チンパンジーとヒトはあらかじめ全体の構造を理解し、行動の計画を立ててから反応をはじめる。このことは、チンパンジーとヒトの大きな作業記憶の容量に基づいているのかもしれない。さらにヒトは並列的な関係を、ほぼ無限な深さの階層にまで積み上げていく。その最たるものが、音素を重ねて単語を作り、単語を重ねて文を作る言語なのかもしれない。またそのことは、【『「ある事柄(関係)」を他人が知っている』、ということを自分が知っている】、という「心の理論」とも関係しているかもしれない。
言語そのものにはあまり関心がないが、ヒトが言語を獲得するように到ったことに関連しそうなこと(他者の指さしや視線によって相互に対象を理解することや、他者の行為がみずからの行為のように感じること)に注目している。

短期記憶と系列の計画を調べるための実験を遂行する被験者

短期記憶と系列の計画を調べるための実験を遂行する被験者

経歴

  • 関西学院大学文学研究科満期退学(1995)。博士(心理学)
  • 日本学術振興会特別研究員(1994-1999)
  • 京都大学霊長類研究所COE研究員(1999-2001)
  • 名古屋大学人間情報学研究科助手(2001)を経て現職(2004)
  • 文部科学大臣表彰若手科学者賞(2005)ほか受賞

所属学会

  • 日本心理学会
  • 日本認知科学会
  • 日本動物心理学会
  • 日本霊長類学会
  • 日本行動科学学会

主要論文・著書

  1. Kawai, N. & Matsuzawa, T. Numerical memory span in a chimpanzee,Nature, 403, 39-40. (2000).
  2. Kawai, N. et al. Associative learning and memory in a chimpanzee fetus : Learning and long lasting memory before birth.Developmental Psychobiology, 44, (2004).
  3. Kawai, N. Action planning in humans and chimpanzees but not in monkeys.Behavioral and Brain Sciences, 27, 42-43. (2004).