教員紹介: 石原 亨(いしはら とおる)

研究内容

Domain Specific Processor Architecture

2016年以降、Google、Apple、Facebook、Amazon(いわゆるGAFA)やMicrosoftなどのICTサービス企業(コンピュータサーバを他社から購入して利用する立場の企業)が、独自半導体チップの設計に乗り出したことは半導体業界で大きな話題となっています。国内でも、デンソーの子会社NSITEXEがDFP(Data Flow Processor)と呼ぶ独自のAI処理プロセッサを開発しました。ルネサスエレクトロニクスは、DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)と呼ばれる動的再構成技術に基づくAI処理チップを開発しました。これらの企業が、汎用チップを他社から購入するのではなく、独自のチップを設計するのは、AI処理を高いエネルギー効率で実行することがそれぞれのICTサービスビジネスにとって最重要差別化要因になると考えたためだと思われます。

我々の研究室では古くから、高いエネルギー効率を志向した独自のプロセッサアーキテクチャ(Domain Specific Processor Architecture)の研究を行っています。具体的には、RISC-Vと呼ばれるオープンソースプロセッサをベースに、グラフ処理に特化した命令を追加したり、AI処理専用のコプロセッサを追加することによりプロセッサのエネルギー効率を最大化する方法を模索しています。独自のプロセッサチップを試作したり、そのチップ上で独自の電力管理リアルタイムOSを実行する実証実験も行っています。世界中のICTサービス企業がそれまでの方針を転換して、独自の半導体チップを設計するようになる中、エネルギー効率の高いプロセッサアーキテクチャの研究は大学の研究室でも最重要研究課題となっています。

Energy Efficient Computing

エネルギー効率を最大化する計算の方法に関して、ハードウェア設計手法から計算アルゴリズムまで幅広く研究しています。

2018年10月からは、グラフ処理を高いエネルギー効率で高速化するプロセッサアーキテクチャに関する研究プロジェクトを開始しました。本プロジェクトは、東京大学および九州大学の研究グループと共同で実施しています。グラフ処理は、自動車やロボットなどの自動運転に欠かせない移動体自己位置推定や地図構築などに使われています。これらのグラフ処理を高いエネルギー効率で実現する方法を研究しています。具体的には、しきい値近傍の低電圧で動作可能なメモリ(Near-Threshold Memory)の近傍でグラフ処理に特化した演算を低電圧かつ高バンド幅で実行するNear-Threshold Near-Memory Computingの研究を実施しています。さらには、リアルタイムOSとの連携により、プロセッサ上で実行されるタスクに対して常に最適な電源電圧と基板バイアスを使用させるための電圧スケジューリングの研究も推進しています。

In-Network Optical Computing

光の通信ネットワーク中(In-Network)で簡単な計算を実行する方法を研究しています。光技術は従来、遠距離通信のための技術でしたが、近年のナノフォトニクス技術の急激な進展を背景に光技術が活躍する場所がどんどん近距離ネットワークにも拡大しつつあります。最近ではプロセッサチップ内のバス配線に光技術を適用する研究も活発に行われています。

我々の研究室では、通信だけではなく光ネットワーク中の簡単な計算に光技術を利用(In-Network Computing)する研究を行っています。光の速度(100ミクロンの距離をおよそ1ピコ秒で伝搬)で信号を伝搬させることにより、従来のCMOS集積回路より一桁以上高速な光演算器を実現することを目指しています。特に、ニューラルネットワークなどの非ノイマン型コンピューティングを光によって高速化する研究を行っています。

本プロジェクトは、NTT、九州大学、京都大学と共同で実施しています。

略歴

1973年 2月: 大阪生まれ
1991年 4月: 九州大学 工学部 情報工学科 入学 
1995年 3月: 九州大学 工学部 情報工学科 卒業 
1997年 3月: 九州大学 大学院システム情報科学研究科 修士課程 修了 
2000年 3月: 九州大学 大学院システム情報科学研究科 博士後期課程 修了 博士(工学) 
1997年 4月~2000年3月: 日本学術振興会 特別研究員
2000年 4月~2003年4月: 東京大学大規模集積システム設計教育研究センター 助手
2003年 4月~2005年7月: 米国富士通研究所 研究員 
2005年 8月~2007年3月: 九州大学 システムLSI研究センター 助教授 
2007年 4月~2011年3月: 九州大学 システムLSI研究センター 准教授(職名変更)
2011年 4月~2018年9月: 京都大学 大学院情報学研究科 准教授
2018年10月~現在      : 名古屋大学 大学院情報学研究科 教授

受賞

2000年 3月:情報処理学会創立40周年記念論文賞
2002年 7月:情報処理学会システムLSI設計技術研究会優秀論文賞
2007年 3月:丸文研究奨励賞
2008年 4月:LSI IPデザイン・アワード MeP賞
2009年 4月:平成21年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2010年 5月:情報処理学会 長尾真記念特別賞
2010年10月:SASIMI 2010, Outstanding Paper Award
2013年 5月:電子情報通信学会 論文賞
2013年 8月:情報処理学会システムLSI設計技術研究会 優秀論文賞
2015年 9月:ISLPED 1st Most Cited Paper Award
2016年 9月:IEEE SOCC Best Paper Award
2016年 9月:情報処理学会システムLSI設計技術研究会 優秀論文賞
2018年 6月:電子情報通信学会 論文賞

所属・連絡先など

  • 情報システム学専攻/コンピュータ科学科情報システム系 教授
  • 博士(工学)
  • ishihara AT ertl.jp
  • 研究室ホームページ:  http://www.eec.css.i.nagoya-u.ac.jp/