イタリア・トリノ開催の学会に参加してきました(M2・前井康秀)

この記事は前井康秀さん(当時M2)による 2019年11月に書かれたhttp://www.tcs.mi.i.nagoya-u.ac.jp/2019/11/prima2019/ の記事を指導教員である小野廣隆が編集して載せたものです.以下の記事にある,前井さんのイタリアでの学会発表は名古屋大学情報学研究科の博士前期課程学生海外派遣助成を利用してのものです

こんにちは。小野研究室修士2年の前井康秀です。今回は2019年10月に1週間ほどイタリア・トリノで開催された国際学会に行ってきた経験について紹介します。本文章の主な対象読者は「大学進学を考えている高校生」や「大学院進学を考えている学部生」ですので、そのあたりの方たちがこれを読んで「学会って面白そう!」と感じ、進路選択等の助けになるようであれば幸いです.

私が今回参加した国際学会はPRIMA2019という通称で呼ばれており、正式な名称は「The 22nd International Conference on Principles and Practice of Multi-Agent Systems」です。つまり、マルチエージェントシステムと呼ばれるような、様々な特徴を持った複数の意思決定主体が行動する社会や空間において、全体として課題を達成したり、シミュレーションしたりする研究を主に取り扱う研究者が集まる学会です。私が現在大学院で行っている研究は、簡単にいうとグループ分けを行う研究であり、前述のマルチエージェント関連の分野とも重なるところがあると思い、論文投稿を行いました。以下に研究概要を簡単に書いておきます.

研究概要

近年、SNSなどの普及により「人と人とのつながり」である「社会ネットワーク」をデータとして比較的簡単に得られるようになりました。私の研究はこういったSNSなどから得られる社会ネットワークの中で、「安定したグループ分け」を見つけることを目的としています。では一体、「安定したグループ」とは何でしょうか?

例えば、あなたが100人の子どもたちをA~Zの26個のグループに分けたいとします。このとき、それぞれの子どもたちはとてもわがままで、自分が所属しているグループよりも他のグループに好きな子が多かったり、嫌いな子が少なかったりするならば、好き勝手にグループを移動してしまいます。さてこの時、100人の子ども全員が自分の今いるグループに満足し、誰も移動しないグループ分けは存在するのでしょうか?存在するとしたら、そのグループ分けをすばやく求める方法はあるのでしょうか?こういった問題について考えるのが私の「安定したグループ分け」の研究です。

実は上の問題において、「安定したグループ分け」は必ず存在するものの、その結果を求めることは一般に計算困難であることが知られています。そこで、私たちは「社会ネットワークの構造」に注目しました。

例えば、社会ネットワーク自体が「各個人が関係を持つことのできる知り合いの数が少ない」などの特徴的な構造を持っている場合、その構造や特性を利用して比較的少ない計算量で問題を解くことが出来るのかどうかは今のところ知られていません。これらに関する計算量を見極めるための帰着や証明を行うことが私の主な研究内容になります。この研究はグラフ構造を用いてつながりや選好を表すことが可能な問題であれば、幅広い分野に応用可能であると考えています。具体的には「乗り合いタクシーの乗降客調整」や「社内プロジェクトのメンバー管理」などが挙げられます。

学会自体の話に戻りますが、多くの国際学会は、希望すれば誰もが参加、発表できるわけではなく、自分の研究成果をまとめた論文(もちろん、ほとんどの場合英語で書く必要があります)を投稿し、関連分野に詳しい研究者の方が論文を読んだ後、一定の成果が認められる(これをacceptと言います)必要があります。acceptされる難易度は参加する学会によって異なります。例えば、今回のPRIMA2019では112件の論文投稿がありましたが、acceptされたのは52件だったので、だいたい半分くらいがacceptされる計算になります。

以降では、実際の滞在記を時系列に沿って紹介します。

◆1日目

11:00 中部国際空港出発

約13時間のフライトです。かなり長旅なので、座席に備え付けのモニターで映画を見たりして時間を潰しました(1年前ぐらいに公開されたばかりの比較的新しい映画もいくつかあったのが予想外でした)。機内食は離陸してすぐと着陸の少し前の2回出てきました。

15:00 フランクフルト空港着

17:00 フランクフルト空港発

18:30 トリノ空港着

合計すると日本を出てからトリノに到着するまで16時間ぐらいかかったのですが、時差の関係上、イタリアよりも日本のほうが8時間進んでいるので、到着時刻は18時過ぎでした。

20:00 トリノ市街着

20:30 夕食

空港からバスに乗って、ホテルのある市街地に移動後、近くのお店に入って夕飯を食べました。注文は英語が通じると思ったのですが、通じなかったのでメニューを指差し&ジェスチャーで注文しました。店員の方がとても陽気かつフレンドリーだったのが印象的で、これがイタリアか、と感じました。

22:00 就寝

移動疲れもあってか、その日はベッドに入るとすぐに寝てしまいました。

◆2日目

06:00 起床

時差ボケのせいか、朝早くに目覚めてしまったので、観光がてらホテルの近くの散歩に行きました。トリノでは、街のいたる所に広場があり、人々の憩いの場として使われているようでした。

08:00 朝食

ホテルに戻ってきて、朝食のクロワッサンを食べました(トリノ滞在中の朝食はずっとこのクロワッサンでした)。このクロワッサンは、中にジャムのようなものが入っていて美味しかったです。日本にもあるのかな?

09:00 学会会場に向かう

朝食を食べ終わったあと、学会の会場であるトリノ大学に向かいます。会場になっている建物はトリノ大学の中でも歴史のあるものらしく、偉い(と思われる)人の石像がいっぱいありました。

09:30 発表を聴講

私の発表は滞在3日目だったので,この日は主に発表を聴講していました。この日特に興味深かった発表は、オンラインでの議論を助ける自動ファシリテーションエージェント(議論が円滑に進むよう合意形成や相互理解をサポートする役割)の開発に関するものです。これを達成するために、議論の構造化に取り組んでおり、その詳しい手法について聞かせていただきました。

13:00 昼食

午前中の発表を聞いたあと、近くのピッツェリア(ピザ屋さん)で昼食を食べました。地元のピッツェリアに入り、マルゲリータを注文しました。英語は基本的には通じないので、注文はメニューを指差すか、拙いイタリア語で伝えます。ピザはドリンク付きで7ユーロ(日本円で900円ぐらい)でした。

16:00 コーヒーブレーク

学会の休憩時間には飲み物と軽食が用意されていました。コーヒーやフルーツ、ハムとチーズたっぷりのサンドイッチが用意されていてとても豪華でした。

18:30 Welcome reception

学会参加者が集まる夕食会が行われました。他の参加者と英語で研究内容や出身地についてコミュニケーションを取りました、会話についていくのが精一杯でした。

22:00 就寝

◆3日目

08:00 朝食

09:30 学会に向かう

発表の順番が回ってくるまで聴講します。この日特に興味深かった発表は、イタリアの電力市場の動向分析に関するものです。現実の市場を正確にモデル化することは各事業者が戦略を考えるにあたって非常に重要であるので、現在よく知られているいくつかのモデル化やシミュレーションの手法を比較検討すると行った内容でした。

こちらの研究に関する情報は以下で閲覧可能です。

https://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-3-030-33792-6_15

13:00 昼食

昨日と同じところでプロシュートを食べました。

14:00 観光

会議の休憩時間で、トリノ市街を観光しました。市街地には数多くの教会があり、一般開放されているため誰でも自由に入ることができます。どの教会も、美しい内装が印象的で、思わず息を呑んでしまいます。

トリノの観光名所の一つとして、モーレ・アントリレアーナという映画博物館と展望台が合わさった建物があります。Welcome receptionの際、別の学会参加者に「この展望台はトリノ市内を一望できてとてもきれいだった」と聞いていたのでぜひ登ってみたかったのですが、観光客が多くて建物に入るのに1時間以上並ばないといけないらしく、諦めました。

15:30 学会会場に戻る

16:00 発表

ついに自分の発表の順番が回ってきました。当然ながら英語での発表・質疑応答を行います。特に英語での質疑応答は事前練習もしづらいですし、何度やっても慣れません。緊張しながらも大きなトラブルなく無事終了しました。

19:00 夕食

今回の学会には私達以外にも日本人のグループがいくつか参加しており、夕食に誘っていただいたので同行しました。参加者の中には私達の研究しているグループ分けの問題でいくつかの論文を投稿されている横尾先生がいらっしゃり、この夕食会で初めてしっかりとお話することができ、嬉しかったです。立派な店構えで緊張してしまいましたが、現地の店員の方がメニューについて丁寧に説明してくださり安心しました。料理も大変美味しかったです。

◆4日目

10:00 学会会場で発表を聞く

13:00 昼食

この日は前回と違う店でピザをいただきました。メニューが全く読めなかったので適当に注文したらよくわからない味のピザが出てきました。サイズもとりあえずラージサイズを注文したのですが予想以上に大きく、よくわからない味のピザを無理して詰め込みました。デザートにイタリアンジェラートもいただきました。

14:30 学会会場で発表を聞く

18:00 Social dinner会場着

夕食はSocial dinnerと呼ばれる、学会参加者の集まる夕食会でした。会場がイタリア原産の食品を多く扱うショップを兼ねていたので、夕食前に散策しました。パスタ、チーズ、ワインなどが広い店内に所狭しと並べられていて、見ているだけでも楽しかったです。

19:00 Social dinner

店舗部分を一通り回ったあと、Social dinner会場に移動します。この会場で隣に座ったのが、Welcome receptionでも同卓の方だったので、拙い英語力ながら、比較的盛り上がって話すことができた(と感じています)。料理も立派なコース料理で、大変美味しかったです。

◆5日目

08:00 朝食

09:00 学会会場着

会場ではプレゼンテーションの他にも、ポスターを用いた発表が行われています。プレゼンテーションを行う参加者のうち半分ほどは自身の研究概要をまとめたポスターを作成して会場内に掲示しており、他の参加者がプレゼンテーションなどを聞いて興味を持った場合、該当するポスターを読むことで内容をさらに深く知ることができます。私たちのポスターに興味を持ってくださった方がいらっしゃったので、内容についてこちらから説明させていただくこともありました(私が説明させていただいた方は配送関係の企業に勤めておられ、その際に「こういった研究は当社で使用しているアプリケーションの開発などに活用できるかもしれない」と言っていただけたのが嬉しかったです!)。

13:00 昼食

また別のピッツェリアでディアボラをいただきました。思い返すと昼食はピザばっかり食べてますね……。

14:30 学会会場に戻る

16:00 学会閉会

17:00 散歩

この日はちょうど10月31日のハロウィーンでした。仮装した子どもたちが街中のお店を周ってお菓子をもらっていました。高級チョコレートショップや日本で言うコンビニのような店でも子ども用のお菓子を用意しているため、このときは子どもたちが羨ましくなりました。

  • 6日目

08:00 バスで市街地を出発

09:00 トリノ空港着

10:15 トリノ空港発

11:30 フランクフルト空港着

14:30 フランクフルト空港発

  • 7日目

10:00 中部国際空港着

翌日の午前中に中部国際空港に到着しました。時差ボケの影響で家に帰ってすぐ寝てしまいました。

まとめ

自分にとっては初めての海外だったので、大きなトラブルもなく無事に終わってよかったです。今回、私が国際学会に行って良かったと感じたことは大きく分けて以下の2つです。

・レベルの高い研究者と直接話すことができる

国際学会に集まる参加者はそのほとんどがそれぞれの分野のスペシャリストで、学会はそのような方たちの話を聞ける稀有な機会です。単純に自分が知らない分野の話を聞くのは面白いですし、互いの研究について情報を交換することで自分の研究に役立てたり、見聞を広めたりすることができると感じました。

・海外交流のきっかけになる、語学力を伸ばす助けになる

今回の滞在中は学会参加者とは英語、現地の人々とはイタリア語で会話することがほとんどでした。翻訳アプリを使いながらコミュニケーションを取ることもできなくはないのですが、やはりスムーズな会話をすることができると気持ちいいですし、なるべく自分の言葉を使って話すほうが今後も役立つだろうと感じ、語学力を身につける強いモチベーションが得られました。

振り返ってみると、今回の経験は自分にとってとても良い影響を与えてくれたと感じています。これを読んだみなさんもぜひ大学院に進学し、国際学会に参加してみてほしいと思います!