教員紹介:新美 倫子(にいみ みちこ)
研究内容 人間と環境のつきあい -過去から現在、未来へ-
人類が誕生して以来、自分たちの周囲をとりまく環境とどのようにつきあってきたのかを検証するのが環境考古学である。過去の人間と環境の関係を可視化して検討することから、人類が環境と今後どうつきあっていけばいいのかが導き出されるであろう。
日本を主なフィールドとして先史時代から近代まですべての時代を対象に、遺跡出土の動植物遺存体資料を用いて考古学的な手法に加えて自然科学的な分析等により、新しい切り口を目指している。
動物考古学
遺跡を発掘すると、当時の人々の食べかすである動物遺存体(動物・魚の骨や貝殻など)が出土するが、これらの分析から人間と動物の関係を考えるのが動物考古学である。
過去の人々の食生活の復元や、人間と家畜の関係、狩猟や漁労などの生産活動等を研究している。例えば、現在では「ぼたん鍋」にするイノシシは冬にしか狩猟しない。しかし、渥美半島の縄文時代の遺跡から出土するイノシシの死亡季節を下顎骨の歯牙の萌出交換状態から推定すると、冬以外の季節に死んだ個体も多く見られ、ここでは年中イノシシ猟をしていたことがわかる。狩猟活動の季節性は集落の労働力の配分など、人間活動そのものを規定し、さらに社会組織や儀礼体系にも影響を及ぼしたであろう。動物遺存体の分析と並行して、狩猟や漁労などに使われた道具類(骨角器や石器など)についても検討している。
植物性の食料
縄文時代の人々が、植物性の食料(特にクリやドングリ類)をどのように利用したのかを考えている。
クリは縄文時代の重要な食料のひとつであり、クリの収穫量や収穫期間、また年による収穫量の変動パターンなどは、縄文人たちの食料獲得や貯蔵・利用の戦略を規定したと考えられる。それだけでなく、集落の人口やテリトリーのあり方にも影響を及ぼしたであろう。縄文時代に食用として利用されたクリの大部分は、現生クリの中では改良の進んだ栽培品種より小さく、野生クリに近いと考えられる。しかしながら、日本の現生野生クリの実については、このようなデータは知られていない。そこで、1999年の秋から愛知県小原村において野生クリ(Castanea crenata)の採集調査を開始した。そして、これまでに野生クリの実の大きさや重量、収穫量や収穫期間、収穫量の年変動等について明らかにしてきた。2004年からはさらに野生クリの地域性を検討するために、岐阜県恵那市・中津川市で同様の調査を行っている。
遺跡出土動植物遺存体のDNA分析
遺跡から出土する動物・植物遺存体のDNA情報を用いて、当時の文化や社会を考えようとしており、最近では遺跡出土ニワトリの分析を行っている。
日本のニワトリは弥生時代に中国大陸から渡来したと考えられ、江戸時代になると出土量が急増する。近年、東京都文京区の遺跡で多量のニワトリ骨が一つの遺構内に一括して廃棄されたケースが見つかっているが、このような一括資料の持つ属性データからは当時のニワトリの生産・流通・消費のあり方に迫れる可能性がある。そこで、これらのニワトリ骨資料の特徴を遺伝的な面から検討するためにAncient DNA分析を行っている。