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特集「新型コロナと情報」:ICT応用で新型コロナと向き合う

はじめに

新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ)が昨年末に発生し、世界各地に広まるなか、2020年は世界的な大災害に見舞われた年であるといっても過言ではありません。各国における新型コロナへの対応はまちまちで、感染状況の把握と分析がその後の感染拡大や収束を左右する最も重要な情報であることは明らかであり、その手段としてのICT利活用は喫緊の課題です。

本稿では新型コロナをテーマに、国内外におけるデータ利活用とその応用についてご紹介したいと思います。まずはじめに、日本国内における新型コロナ関連のシビックテックによる活動とその課題について述べます。情報の広範な収集と整理・発信の際、いかに正確に情報収集し迅速に発信すべきかが重要であり、今回はオープンデータとシビックテックについて注目したいと思います。つぎに、新型コロナによる第1波の感染拡大の際に全国的に行われた学校閉鎖に対する政府の取り組みや、在宅・オンライン授業の場面において筆者が大学や地域において実施するオンライン講義の取り組みをご紹介します。最後に新型コロナにより広まった「ソーシャルディスタンス」「3密」とよばれる対策から生じた地域のコミュニケーション減少の現状と、それに対する筆者の取り組みをご紹介したいと思います。

感染症対策に向けたシビックテックとオープンデータの取り組み

「シビックテック」とは、地域の住民自身がテクノロジーを活用して、地域の課題を解決することを指します。シビックテックの始まりは、米国「Code for America」が著名で、現在の日本政府が推進する政府・自治体が主導する「オープンデータの推進」とは異なり、地域の自助と行政とのビジネス連携を前提とした、地域課題解決のための実践的な取り組みです。Code for Americaを支援する米国ナイト財団[1]が公開する資料では、シビックテックの範囲を以下のように分類しています。

・Government Data(オープンデータの利活用)

・Collaborative Consumption(P2Pシェア)

・Crowd Funding(クラウドファンディング)

・Social Networks(地域SNS)

・Community Organizing(コミュニティエンゲージメント)

上記のうち、特に1番目、4番目、5番目については、新型コロナの拡大感染をICT利活用によって防ぐための重要な視点であると思われます。

まず、1点目のオープンデータの利活用についてですが、現在、日本政府が2016年12月に公布した「官民データ活用推進基本法」[2]をもとに、自治体や企業など民間が自由に活用可能な形で公開する「オープンデータ」を更に利活用する機運が高まっています。オープンデータ推進のゴールには、日本全体が情報利活用のための土台が整備され、オープンガバメントやSociety5.0など、ICTを活用したデジタル社会の構築が設定されており、この目標達成の立役者としてシビックテックの活躍に期待が集まっています。つぎに4番目は地域に根差したICTによるコミュニケーションルートの確立が、誰一人として取り残さない新型コロナへの対策に最も重要で、特に都市部における地域SNSの利活用は、もともと疎遠になりがちな住民間コミュニケーションの課題ともあいまって、普及のための活動は喫緊の課題であるといえます。また5番目のコミュニティエンゲージメントは、「より良い地域社会を作るための活動」つまり「地域・社会貢献」を指しますが、政府や自治体を頼るのみでなく、地域の行政・企業・住民が一体となって新型コロナに対応しなければならない現状からも、大変重要であると思います。

日本におけるシビックテックはこれまでも様々な場面で取り上げられてきました。例えばCode for Kanazawaが2013年に開発、運用を開始した「5374.jp」[3]の取り組みは、行政から発信される地域のごみ収集のスケジュールを、住民らがデータ整備し、汎用のアプリを用いて確認できる「オープンデータアプリ」です。アプリケーション自体を変えずに、中のデータのみを他地域のデータに差し替えることで、様々な地域にも対応できることから非常に注目され、全国各地に普及しました。ここでのポイントは各地域のごみ収集情報は公開方法や更新頻度が異なるという点です。これは、地域の自治体が行っているごみ収集の事業主体や実施者が異なり、またごみ捨てのルールも地域ごとに異なることから、このような地域間の差をどう埋めるかが重要な課題です。これに対して5374.jpのアプリでは、データ入力者が自由にごみの種別を登録できたり、スケジュールについても柔軟に入力できるよう工夫がされています。全国の自治体がごみ収集のルールやスケジュールを一元化することはとても難しいですし、そのためのアプリ開発においても統一的なフォーマットを検討することは現段階で現実的ではありません。5374.jpのアプリは、行政から発信される情報を自分たちなりの工夫をちょっと加えることでさらに使いやすくすることが可能になる魔法のツールといえます。

一方でこうしたシビックテックの取り組みと行政との連携は実は日本ではあまり進んでいないことが問題視されています。原因の一つは行政機関がシビックテック活動団体との正式な契約行為に慣れていないことが挙げられます。代替する組織としてNPO団体などが挙げられますが、前述の全国のCode for XXXの全ての団体がNPOなどの公式に認められた団体として活動しているわけではなく、このことがシビックテックの普及を阻む原因になっていると言われています。

しかし、新型コロナ感染拡大のこの局面において、シビックテックが注目され、実際に地域で活躍する事例が増えてきているのも事実です。この理由には行政機関による迅速な情報整理や発信の能力が限界にきていることや、地域をまたいだ情報共有の仕組みを個々の自治体で持ち合わせていないといった潜在的な課題があり、これらの解決手段の一つに技術中立的で市民ベースのシビックテックの活躍が注目されていると考えられています。

新型コロナに関連するシビックテックの著名な活動としては、東京都の「東京都新型コロナウィルス感染症対策サイト」[4]が著名です。本サイトは Code for Japanが開発しており、「データを正しく公開することや、ソースコードを公開し他の自治体と協力し合い、よりよりシステムを日本全体で使えるようにする」ことをサポートしていると発信しています[5]。

実際、公開されたソースコードをもとに、全国の多くの自治体が地域のCode forの団体と連携して各自治体の新型コロナ対策サイトを立ち上げるという事例が増えてきています。このようにアプリケーションのソースコードをオープンにするという発想は、オープンデータ以前の、フリーソフトウェアやオープンソースの活動に通じるもので、まさに「情報学」発祥のアイデアであり、インターネットそのものの発想や発展に大きな影響を与えてきた感覚であるといえます。

また、日本におけるオープンデータの先駆者として知られる福野氏が公開する「COVID-19 Japan:新型コロナウイルス対策ダッシュボード」[6]も著名です。こちらは、新型コロナの感染拡大状況を感染者と病床数の観点で都道府県ごとに可視化したもので、各都道府県からの公開情報を整理し、1つの画面で都道府県ごとの病床利用率が確認できるようになっています。全国の自治体からの情報を集約し分かりやすく可視化することで、新型コロナ拡大感染に向けた意識向上に寄与している好事例であるといえます。

一方で、このような感染症に関する情報公開に対する抵抗が全くないかといえば、そうではありません。地域の感染状況が公開されることは、自治体のみでなく、例えば観光産業などにも致命的な影響を与えることが懸念されますし、地域住民からすると近所に感染者が発生した場合はいち早く知りたいが、そのことを周りに周知したいかといえばそうではない、など日本におけるデリケートな情報に対する公開意識は、まだまだ高いとは言えない状況にあります。それでもなおシビックテックへの需要が高まる背景は、「それどころではない」という緊急的措置としての側面も多分にあると推測されます。

では、もし新型コロナが収束した場合に、シビックテックが衰退するかといえば、答えは「ノー」であると思います。シビックテックを支える地域のエンジニアが新型コロナの収束に多大な貢献をした事実は誰からも忘れ去られることはないでしょう。彼らの勇気と技術力が地域の課題解決と発展に一層寄与し、今後も積極的に活躍されることを心から望みます。

教育現場におけるICT応用

新型コロナ感染拡大の影響により、様々な教育機関がオンラインでの授業実施を余儀なくされています。中でも大学機関は教員のICTリテラシーや設備もある程度整っていることから、国内における先端e-learningの実施がここにきて急速に進んでいます。

政府は当初から準備を進めてきた「GIGAスクール構想」を前倒しし、令和2年度の補正予算案として「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」を目的とした、ハード・ソフト・人材を一体とした整備を加速することを発表しています[7]。当初の「GIGAスクール構想」では、1人1台端末や高速ネットワーク環境の整備を目的としていましたが、「新型コロナウィルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日閣議決定)[8]において、「令和5年度までの児童生徒1人1台端末の整備スケジュールの加速、学校現場へのICT技術者の配置の支援、在宅・オンライン学習に必要な通信環境の整備を図るとともに、在宅でのPC等を用いた問題演習による学習・評価が可能なプラットフォームの実現を目指す。」とされました。これらを実現する上で、当初上がっていなかった内容を要約すると、ICT技術者配備の支援や、在宅・オンライン学習に必要な環境整備が注目されます。つまり従前は学校内の端末整備やネットワーク環境のみが注視されていました。特にICT技術者の配備については、過去の学校ICT化に関わる国家プロジェクトにおいても「IT支援員」の存在が非常に重要だと言われていたものの、なかなか進んでいないのが現状です。また、今回の新型コロナウィルスによって登校が困難になった場合の、在宅・オンライン学習についても言及されている点は、当初予定よりもはるかに緊急を要する課題であったものと推察されます。

名古屋大学におけるオンライン講義の現状

本学でも当初、新学期の講義開始を例年より遅らせ、対面授業とデジタル授業を並行させる予定でしたが、名大が整備してきたオンラインの学習支援システムなどを利用することで、教員が作成した音声付教材を配信、学生は閲覧可能な時間にパソコンなどを使って自習する仕組みを整えています。同システムの活用により、メール等を通じて質問を受け、課題もオンライン提出ができる環境が整っています[9]。

教育現場におけるオンライン授業実施の難しさは、特にプログラミングなどの演習による講義です。筆者も演習授業をいくつか担当していますが、アプリケーションの開発をWebベースで行いながら地域の学校や施設などで活用可能な教材作成を演習授業と連携して実施しています。受講者にとってのより高い目的意識の獲得や教育現場におけるプログラミング教育についての深い理解を得ることを目的とした実践的な講義内容を模索しています。

オンライン講義の工夫

筆者の担当する講義では、プログラミングそのものを目的とせず、プログラミングの結果制作されるアプリケーションそのものに対する需要や、それによって解決される課題から考察し、設計から実装、プレゼンテーションまでを授業の範疇としています。最も大切なのは、モチベーションとなるテーマ設定です。この時期ですので、新型コロナ感染拡大を受け、地域での教育、特に小中学校におけるプログラミング授業のオンライン化に焦点をあて、受講生にはその授業で活用してもらう教材(アプリケーションと教材資料)の作成をテーマとしました。従前までの授業では、演習室での実施でかつ、スマートフォンアプリの開発をPCと実機を用いて実施していましたが、PCはともかくスマートフォンアプリの開発をオンラインで実施することは困難なため、シミュレータを完備しWeb上でプログラミングが可能なシングルボードコンピュータ「micro:bit」を教材としました[7]。クラウド環境でプログラミングができ、かつシミュレータによって実行結果を確認できることは大変有用で、当講義の受講によってさらに理解を深めたい場合は、実機を購入してさらにプログラミングスキルを研鑽することが可能です。

地域との連携

2020年度から小学校でのプログラミング教育開始、GIGAスクール構想の前倒しなど、地域の教育現場では新型コロナウィルス関連以外にも対応すべき様々な課題に直面しています。実際、プログラミング教育の進め方については、2014年に諮問が開始され、2017年より周知が始まりましたが、同内容を盛り込んだ「新学習指導要領」では、プログラミング教育以外にも目玉となる外国語や道徳の「特別の教科」化などが重点項目になっており、またプログラミング教育については明確な指導案についての明示がなされておらず、都道府県の教育委員会ならびに市町村の教育委員会に実質的に委ねられているのが現状です。実際の教育現場においてもようやく情報演習室と呼ばれるコンピュータルームの整備が始まり、移動可能なタブレット等の端末への切り替えや、学内のどこからでも利用可能なWifi環境整備に移行が始まった段階であり、GIGAスクール予算で整備が始まるのは、早くとも2020年度末頃であると言われています。

何より、プログラミング教育には、環境整備のみならず、プログラミングを学習するための学習教材の不足が深刻であり、これらの教材をどのように作成し活用するかについては、プログラミング教育をけん引する都道府県教育委員会にかかっているといっても過言ではありません。

筆者は、今回の大学演習講義の教材作成を地域でのプログラミング教育に活かす試行を受講生に提案したところ、多くの賛同を得られたため、地域の教育関係者や情報センターなどの施設管理者とも連携する形で実践的な試行の模索を開始しました。後者の情報センターについては、おもに行政機関のなかでも産業連携開発関係の部署が管理するICT技術者育成を目的とした施設ですが、このような施設設置の有無は自治体によりまちまちな現状です。フィールドとなる長野県須坂市では須坂市技術情報センターという施設があり、筆者の故郷ということもあって、これまでにマイコンプログラミング教室等を開催してきた経緯があります。今回は地域の情報センターにおけるプログラミング教室のオンライン化の試行も行いつつ、地元中学校でも同様にプログラミング教育実施に向けた試行の模索を行いました。学習者である小中学生に対して、活用教材が大学生によるものであることを知ってもらうことで、子供たち自身も教材作成が容易にできることを感じてもらい、仲間を増やす形でプログラミングスキルの研鑽につながることを願っています。

参考資料

[1] Knight Foundation, https://knightfoundation.org/features/civictech/

[2] 首相官邸, 官民データ活用推進基本法, https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/detakatsuyo_honbun.html

[3] Code for Kanazawa, 5374.jp, http://5374.jp/

[4] 東京都, 新型コロナウィルス感染症対策サイト, https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

[5] Code for Japan, 新型コロナウイルス感染症対策のためのデータ公開支援, https://www.code4japan.org/activity/stopcovid19

[6] COVID-19 Japan:新型コロナウイルス対策ダッシュボード, https://www.stopcovid19.jp/

[7] 内閣官房, 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~, https://corona.go.jp/news/news_20200420_69.html

[8] 文部科学省, 令和2年度補正予算案への対応について, https://www.mext.go.jp/content/20200408-mxt_jogai02-000003278_412.pdf

[9] 読売新聞オンライン, 名大、8月上旬までオンライン講義…対面授業見送り, https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20200406-OYT1T50069/

(筆者紹介)

遠藤 守(えんどう まもる)

・名古屋大学 大学院情報学研究科 社会情報学専攻 准教授

・専門分野は社会情報学,メディア情報学など。ネットワークシステムやオープンソースソフトウェア,オープンデータなどに興味をもち,それらの社会応用研究を推進しています。

ホームページ    https://leo.mdg.si.i.nagoya-u.ac.jp/~mamoru/jp/

Facebook             https://www.facebook.com/mamoruendo0731/

2020年9月3日社会情報学専攻, グローバルメディア研究センターコロナ特集, 電子社会, ICT応用, 社会情報学専攻, 人間・社会情報学科, 社会情報系

Posted by endo

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