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流体の流れ,物の流れ,情報の流れを可視化する

流体の流れを可視化する

朝の散歩で感じる風の流れが季節に変化を感じる人もいるでしょうし,川のせせらぎに数日間の雨の記憶を思い出す人もいるでしょう.このように流れは日常社会に多く見られます.流れと言っても,ここで挙げたような空気や水の流れのみならず,人や車の流れ,物流や,情報の流れなどもあります.流れは,人間社会の多くの場で見られる現象です.ここでは,感覚で受け取ることができるが,それを実際に科学的に見てみることを考えてみましょう.

空気の流れでかねてより興味を持たれていたことに風の流れがあります.天気予報の画像を見ると,気象通報や少し前のメディア方法では,各観測地点の風向と風速が,風向の向きと強さで表されていました.しかし,近頃の動画報道では,流れを結んだ線で流れの変化を,線の色で流れの強さを表すことで,より分かりやすくしようとする方向にあります.また,渦も,流れとしては私たちに認識しやすい概念です.鳴門の渦などは一目瞭然ですが,橋から眺める河や海辺の流れに渦を見出すのは,ちょっと難しい話です.

これには従来から興味が持たれており,渦とはなにかについて,いくつかの提案もなされてきました.自然が作る流れに対して,流れを支配する方程式を数値的に解いて得られる流れの中に渦を見出す方法も,いくつか提案されてきました.1つが,渦度という物理量であり,これは,流れ場のある点を中心とした速度の空間勾配より計算されます.しかし,渦度では,局所的な渦の存在は分かりますが,私たちが見慣れた大局的な渦を見るのには適していない場合があります.

そこで,私たちが見る渦の力学的性質に立ち返ることで,新しい定義が提案されてきました.渦には軸があり,3次元空間では,6成分からなる2階テンソルを与えます.2階テンソルであれば高校レベルの行列計算が適用でき,固有値が計算できます.この固有値の計算過程で得られる余因子が,各渦のベクトルの大きさを表すとして定義したのがQ値による渦の定義です.また,渦の軸と流れの軸が一致する流れ領域が,渦が存在する場所だとするヘリシティの定義,渦が存在すると圧力の低下がみられるという考えに基づいた定義などが提案されています.そして,Q値やヘリシティが同じ値の箇所を抽出すると,流れの渦構造が現れるとするわけです.

  • Q 値を用いた流れの可視化 (Re = 8000)
  • Q 値を用いた流れの可視化 (Re = 40000)

この渦構造を使うと,計算結果からも,渦がどのように発達するかを知ることが出来ます(1), (2).流れの数値計算結果を処理するソフト(ポスト処理ソフト)には,このような渦構造を抽出する機能が組み込まれています.しかし,ポスト処理ソフトに含まれている機能を用いるよりは,実際の計算結果から特性量を計算しておく方が,良い可視化結果が得られるようです.これらの可視図より現象が理解しやすくなりました.1つの例を挙げてみましょう.円柱容器内で回転を始める厚みのある円板周りの流れで,当初,静止状態にある流体から,どのように渦が現れ,どのような流れが最終的に構成されるかが分かってきました.円板が厚みを持つことにより,容器の側面と円板の端面の間に多様な渦が発生するのが,この流れの特徴です.流れの主な発達過程では,

  • 円板の上限端で,円板に向かう回転の渦が発生する.
  • 多数の渦が円板の厚みの側面に現れる.
  • 円板の速度や加速度により,融合や消滅を起こす渦の競合が起こる.
  • 最終的に安定した渦構造が形成される.

となります.このような構造の発達過程を調べることにより,効率の良い攪拌反応器や低エネルギでの回転場の実現などの運転制御につながっていきます.

数値計算の結果を可視化する最近はやりの方法に,限界流線があります.これは,固体壁面近くでは粘性応力が支配的となり,流線の方向がひずみ速度の方向と一致するであろうという考えに基づく方法です.これにより,流れが壁面から離れる剥離領域や,流れが壁面に付着する領域,さらには流体内部の流れのスタイルを解釈するために有用な情報であり,流れのトポロジーの解析に役立っています.

物の流れ,情報の流れを可視化する

物の流れとして人流や車流,特に,特定の人や車を対象とした追跡を見てみましょう.これには,近年の深層学習の技術が役立ちます.元のカラー画像は3原色からなる3枚の画像チャンネルの組み合わせで表されますが,画像の中に存在する物体を検出するため画像認識などでは,現画像の大きさは小さくしても,チャンネルの数を増やして,そのどれかのチャンネルで検出対象の特徴に反応するようになります.このチャンネルの中から,直前までに認識された対象の特徴を持つものを選ぶことにより,新たに対象が存在する領域を特定し,追跡を行うことが出来ます(3).

では,特徴を持つチャンネルを,どのように探せばよいのでしょうか.これには,既存のチャンネルから直前の対象の特徴を持つものを,一定割合で取り出すことも良いでしょう.しかし,これでは,不用意な特徴を持つチャンネルも,半ば強制的に取り出してしまう可能性があります.直前の対象の特徴を持つチャンネルを集中的に取り出すことが出来れば,より高効率に対象を追跡できることが期待できます.これを実現するネットワークを実際に構築し,その効率性,高速処理性を実現することが出来ました(4).現在は,共有メモリで複数のコアから動画をスキャンすることで,様々な人や物を同時に追跡するシステムを構築しているところです.2021年9月号の情報処理学会の月刊誌では,人流を話題として取り上げています.これは,社会における人の動きを対象としたものですが,社会の中の流れを見える化していく試みであるといえます.

  • モータバイクの合成ヒートマップ
  • モータバイクの動き

人工知能による認識の挑戦の1つに,人間には区別がつかないような,見えないノイズを加えたデータに対して,信仰知能が誤った認識を行うということがあります.この点を少し大げさにとらえれば,人工知能には見えないものが見えていることになります.この問題が解決できれば,ノイズが加えられた画像と,オリジナルの画像を知ることが出来,贋作の発見などに用いることが出来ます.では,ノイズの乗った画像から現画像を正しく認識できるか.この可能性を持つものとして,敵対的生成ネットワークの利用を考え,現在,その可能性を図っています.まだまだ十分な結果までは得られていませんが,これまでのところ,ある程度まで解決可能であるとの見通しは立つようになってきました.

過去の情報処理が現在の情報を見える化する

私が過去に行ったことをもう1つ触れておきましょう(5).私の出身は,機械系であり,材料力学,機械力学,熱工学のなど分野のうち,流体力学に興味を持って取り組んできました.そのような中で,現在の人工知能ブームの1つ前の第2世代人工知能ブームが起きていました.第2世代の人工知能の考え代え方の1つに,人間の持つ,「ある条件を認識すれば,認識結果により判断し,行動する」というものがありました.これを計算機で実現するために,「もし ○ ○ であれば,□ □ を行う」という人間の知識をルールとして計算機に載せれば,問題が解決できるのではないか,という考えがありました.私のスーパバイザは,この考え方に惹かれれ,私に,流体力学の問題解決に,この方法がもちいられないか,と提案されました.そこで私が考えたのが,ポンプや管路,水車が連結する流体力学系の問題を解くための方法を作成してみました.ここでは,流体が,ポンプでどの程度のエネルギを受けるのか,管路を通る間にどの程度の抵抗を受けるのかの実験結果をルールとして計算機に教えました.ポンプや管路のような装置(デバイス)に,どのような量が与えられると,どのような量が得られるかという知識です.でも,これではルールの数が多くなってしまいます.そこで導入したのか,デバイスの間では,流体の密度や圧力,比体積に,どのような関係があるかは,その場で解いておこうとする考えです.例えば,理想気体では状態方程式から圧力と温度から体積が決まります.この仕組みをインフォメーションフロー(情報流)と名付けました.また,相手にする問題は,文章問題であり,たまには図も添えられています.このため,当時の自然言語解析を行う機能を導入し,問題として与えられている情報や,求められている解がどのようなものであるかを抽出する仕組みも考案しました.流体関連の問題には,境界条件がいくつかの点で与えられる微分方程式を解く必要もあります.これらの問題を解くために,1つ1つの微分方程式の解法プログラムを用意しておくことは効率的ではありません.そこで,式の形と境界条件,計算領域などをしてすれば,解法プログラムを自動的に作成してくれるインターフェイスも構築しました.他にも,次元解析で問題を簡単化する機能なども加えました.現在の時点では,これらの機能で用いられた方法の一部は依然として利用されており,情報学の発展に寄与しているものと考えています.

おわりに

流れや物流,情報の流れ対象に,流れが一体どのようになっているのだろうか,物流,情報の流れで重要となる点をどのように取り出すことが出来るかをみてきました.この小文をきっかけに,この分野に少しでも興味を頂き,この分野の情報学の研究を始めてみようとする方がいらっしゃれば,幸いなことです.

参考文献

  1. Watanabe T., Endo S., Flows Developing around a Finite Rorating Disk Enclosed by a Cylindrical Casing, The 8th TSME ICoME, (2017).
  2. Watanabe T., Mode and Torque of Flows around a Rotating Disk in a Cylindrical Casing, Materials Science and Engineering 501 (2019), 012058
  3. 山田, 渡辺,畳み込みニューラルネットの特徴マップ選択によるトラッキング, 情報処理学会第79回全国大会, 1P-08 (2017).
  4. Murate T., Watanabe T., Yamada M., Learning Mobile CNN Feature Extraction Toward Fast Computation of Visual Object Tracking, arXiv:2104.01381v1 [cs.CV] (Apr. 2021).
  5. 日本機械学会編, フルードインフォマティクス「流体力学と情報科学の融合」, 3.2節, (2010), 技報堂.

複雑系科学専攻  渡辺 崇

2021年9月22日複雑系科学専攻複雑系計算論講座, 見える化特集, 流れの可視化, 情報の流れ, 流体の流れ, 複雑系科学専攻, アルゴリズム

Posted by watanabe@i.nagoya-u.ac.jp

IEEE VTS Tokyo/Japan Chapterで2021 Young Researcher's Encouragement Awardを受賞しました。(情報システム学専攻 安食拓海 M2)
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