教員紹介:星野 哲也(ほしの てつや)
研究内容
コンピュータの中には、コンピュータの頭脳であるCPU(Central Processing Unit)があります。実はこのCPU、近年では複数のコア(実際に計算を行う中の人)を内包することが一般的で、例えばiPhone 16のCPUは6つのコアからなります。従って、iPhone 16の性能を十分に引き出すためには、複数のコアを同時に活用する並列計算が重要になってきます。
片桐・星野研究室では、高性能計算(High Performance Computing, HPC)に関する研究を行なっておりますが、現代のコンピュータにおける高性能計算とはすなわち並列計算です。スマホにだって複数コアのCPUが搭載されているのですから、高性能計算は実は身近テーマなのです。
特異な点を挙げるとすれば、我々が扱う並列計算は規模が非常に大きいといえます。例えば名古屋大学情報基盤センターに設置されたスーパーコンピュータ「不老」のType Iサブシステムは110,592個のコアから構成されており、これを効率良く扱おうと思うといろんな問題が出てきます。
まず、10万コアで並列計算を行おうと思ったら、当然ながら10万コア分の作業を用意しなくてはなりません。しかも、その作業量は極力均等でなくてはなりません。また、複数人で効率良く作業を行うためにはコミュニケーションが重要であるのと同じで、複数コアによる並列計算でもコア間のコミュニケーションが必須なのですが、コア間の通信が遅いことも問題となります。コア間の通信には光が用いられますが、光のスピードは近年のスパコンの性能を考えると遅いのです。光の速さは30万km/s、つまり3メートル進むのに0.00000001秒かかります。この間に各コアは700回ほど四則演算ができますし、スパコン「不老」全体だと8000万回ほど四則演算ができてしまいます。よって、コア間通信の少ない、あるいは、コアが計算を行なっている裏で通信を行うようなアルゴリズムを考える必要があります。スパコンで解きたい問題は、気象や地震のシミュレーション、創薬、金融、AIなど多種多様ですが、それぞれについて効率的に数万コアの並列計算が可能なアルゴリズムを考える必要があるのです。
我々が取り組んでいる問題の一例として、階層型行列法(H-行列法)と呼ばれる行列近似手法があります。境界要素法などに現れる密行列は、解きたい問題の物理的な性質(引力のように距離が離れると影響が小さくなるなど)を用いて近似することが可能であり、メモリ量や計算量を減らすことができます。しかし結果として現れるH-行列の構造は、部分行列のサイズがまちまちであり、並列計算を行う際にはコア間での作業量の均等分散が非常に難しく、また複雑な通信が発生することが問題となります。
興味がありましたら、ぜひ片桐・星野研究室へご連絡ください。

連絡先など
所属:名古屋大学 情報基盤センター
オフィスの場所:名古屋大学 情報基盤センター5階 502号室